有給消化率が世界最低、日本の労働者が失っているもの

とにかく休めない、休まない日本人。なぜ日本は、有給休暇取得率が低いのでしょうか。それに比べ、なぜドイツでは、みんなが率先して休める環境なのでしょうか。ドイツのリアルな「休暇」に対する考えをお届けします。

有給休暇を取らない、取れない日本人

電通の過労死問題が注目され、長時間労働への本格的な対策が急務とされている日本。それと同時に、有給取得率の低さも注目されています。

例えば、先日導入されたプレミアムフライデーを、「金曜日に半休を取ることを奨励し、有給休暇取得率を上げる」ために使った企業もあったほどです。

厚生労働省の2015年度の調査によると、労働者1人あたり年間平均付与日数は18.5日。取得率は47.6%で、平均取得日数は8.8日という結果になっています。

2016年末に行われた、エクスペディア・ジャパンの調査では、先進国28か国中、日本の有給消化率は最下位であることが発表されています。ちなみに、ブラジル(有給休暇は年30日)、フランス(30日)、スペイン(30日)、オーストリア(25日)、香港(14日)は、100%の消化率です。

「有給取得に罪悪感を感じる人の割合」では、韓国の69%に次いで2位の59%。また、「自分の有給支給日数を知らない人の割合」は、47%の日本がトップで、2位の韓国の21%を大きく引き離しています。

このデータを踏まえると、「休みが取れず大変」のように思えますが、「休み不足を感じている人の割合」は、日本は34%で、「世界で一番休み不足を感じていない」という結果になっています。

有給を取得しない理由は、1番に「人手不足」が挙げられていて、休めない状況であることがうかがえます。また、2番目に挙げられている「職場の同僚が休んでいないから」と答えた人の割合は、世界で一番多いことがわかっています。

なぜ日本人は、ここまで「休む」ことに無頓着で、「みんなが休めない」状況になるのでしょうか。

労働者の権利にうるさいドイツ

よく、「欧米人はたくさん休むのに、なぜ仕事がまわるのか」という話になります。ですが、それは少し誤解があります。

だれかが休暇を取得すれば、当然、その人の仕事は滞ります。まわりの人が多少カバーするとはいえ、その人にも自分の仕事があるので、休暇中の仕事は、ある程度放置されます。

私はドイツに住んでいますが、「ただいま休暇中なので、1ヶ月ほどオフィスを不在にしています」という自動返信が返ってくることなんて、日常茶飯事です。

それでも、それを「迷惑」だと考える人が少ないのです。

なぜなら、「権利だから」。

自分も休むので、人が休んでいても文句を言いません。もしあなたが「休暇中でも関係ないから連絡しろ!」とクレームをつけたとしても、みんな知らん顔をします。なぜなら、「休暇中だから」。

「休暇をとっても仕事が回っている」のではなく、「同僚や客が休暇に理解があるから、長期の有給休暇を取っても問題にならない」のです。

しかも休暇中に病気になれば、それは病欠扱いになり、休暇日数には数えられません。休暇中は、休める状況でなくてはいけないのです。電話対応やメール対応などは、特殊な職業を除き、強制されてはいけません。

こうした労働文化の背景には、ヨーロッパ各国が、労働者が何度もデモやストライキなどを行って、「休む権利」を獲得してきたことが関係しています。また、ドイツは、労働組合や市民団体の地位が高い国でもあるのです。

そのため、「根性論」や「まわりの空気」などよりも、「権利」と「規定」が重視されます。休むことは大切であり、労働者にはその権利が認められているから、休む。それだけのシンプルな理由で、有給休暇が取得できるのです。

ちなみにわたしは、週2回のアルバイトだったにも関わらず、有給休暇を12日(6週間)もらうことができました。違う職場でたった2ヶ月で辞めたときも、規定に合わせて、3日の有給休暇を取得した経験があります。

日本は権利を守る意志よりも全体の「和」

対して、日本では、「努力」や「忍耐」が評価される傾向にあります。効率的に働き、よく休んで結果を出す人よりも、ガムシャラに働き、休まず結果を出した人の方が、「美しい」と評価されるのです。

本来、休むことは心身ともに健康な状態にするために不可欠なのですが、日本では「怠惰」と見られてしまう風潮があります。そのため、休むことは恥ずかしいこと、迷惑をかけること、避けるべきこと、という認識が根付き、有給休暇取得に罪悪感を感じるのです。


また、有給取得率の低さは、権利の意識の低さでもあります。日本には、立場が上の人に向かって権利のために戦う、という考えがあまり根付いていません。それは、部活やアルバイトですら、「理不尽でも我慢する」学生が多いことからもわかります。

顧客の立場が異様に高く、際限のないサービスを要求されることも、労働者の地位を低くしている原因のひとつです。いくら休みたくとも、客が「すぐにやれ」と言われれば断れないでしょうし、無茶な納期変更などに強気で抗議できる人は少ないでしょう。

有給休暇の取得をはじめ、残業代の請求や買取補填の拒否などは、労働者の権利です。ですが、まわりの圧力や理不尽な要求により、泣き寝入りしている人が多いのが日本です。

「権利のために戦う」という意識が低く、結局は諦めるという結論になってしまう人が多いのではないでしょうか。

日本の労働者にだって、権利はある

休むことの大切さは、だれもが理解しているはずです。大事なのは、会社自身の体質改善もありますが、労働者が「休む権利」を持っていることを自覚し、その権利をしっかりと行使し、認められない場合は戦う覚悟を持つことです。

有給休暇の取得率の低さは、労働者の権利が軽んじられている証拠です。労働者の権利に敏感な経営者であれば、どうにか有給休暇を取得させるのがまっとうな判断であり、それが経営者の仕事です。

権利を奪っても、空気を読んで働き続けてくれる日本人。会社にそう思われているから、有給休暇が取りづらい雰囲気はいつまでも変わらないし、休暇への理解も進まないのではないでしょうか。

空気など読まず、労働者の権利として堂々取得する人が増えれば、「有給休暇は取って当たり前」になっていくはずです。

有給休暇は「許可をもらって取らせていただくもの」でも、「仕事が落ち着いたら上司からもらえるご褒美」でもありません。労働者の権利なのです。
働き方が見直される現代で、もっとも大切なことは、「長時間労働の是正」や「有給休暇の取得率を上げる」というような局所的なことだけではなく、「労働者の権利を守り、そのために戦う覚悟を持つこと」だと考えます。

雨宮 紫苑
1991年、神奈川県生まれ。大学在学中にドイツで1年間の交換留学を経験し、大学卒業後再び渡独。
ワーキングホリデーを経て現地の大学へ入学し、現在フリーライターとして活動中。
日独比較や海外から見た日本など、海外在住者の視点で、多数の記事を寄稿している。
執筆業の傍ら、日本語教師としても活動中。