ポジティブでもネガティブでもダメ。必要なのは「理想と現実のギャップを知ること」

職業柄、常日頃ビジネスパーソンや起業家向けの英文記事を読む機会が多いのですが、毎日のように目に飛び込んでくるのが、成功のための様々なアドバイスです。

〝成功者に共通する〇〇の特徴″、〝成功者が夜寝る前にしていること″、〝成功者が決して口にしない〇〇の言葉″等々。どれをとっても私たちの日常に役立つヒントや、やる気を起こさせてくれる言葉でいっぱいですが、その中で必ず強調されるのが「ポジティブ思考の大切さ」です。

「成功したいなら、すでに成功者のように振る舞え。あとはついてくる!」

たしかに、これには一理あるような気がします。なぜなら人間の頭脳は「できない」と思った瞬間に活動を止めてしまうものだからです。実際には十分できる能力を持った人も、できないと思った時点で本当にできなくなるものらしいのです。希望の会社に入れた。長年夢見ていた起業にこぎつけた。ここから大きく羽ばたきたいとき、「でも自分にはこれが本当にできるのか」という懐疑心が少しでもあると、目標の実現は難しくなります。

英国の実業家でコングロマリット、400以上の企業を操るヴァージン・グループ会長のリチャード・ブランソン氏などは、周囲の「無理」という言葉に耳を貸さず、自分を信じることで大成功につなげた典型的な例と言えます。

自分に確信を持つ。そのためには、自分はすでに成功したビジネスパーソンなのだと信じて行動する。すると姿勢、服装、話し方まで変わり、周りの人もあなたが将来大成する人間だと受け止めるようになる。

その他にも、ポジティブ思考には健康に好影響という利点もありそうです。日本にも「病は気から」という言葉がありますが、病院で重病を患者に宣告する前に、その患者の楽観度を調べるという話もあります。

ポジティブ思考の落とし穴

しかし中には、このポジティブ思考に、疑問を投げかける人もいます。彼らも起業家に楽観主義が必要なことは十分認めています。けれども、それが人間を盲目にさせることがあり、現実の把握を困難にすることがあると警告するのです。それが悪い賭けや、辛抱して続けさえすればどうにかなると盲信させ、見込みのないビジネスに見切りをつける判断を遅らせるというのです。

ニューヨーク大学のガブリエル・オッティンゲン心理学教授もその一人です。20年間にわたる彼女の研究結果は、未来を夢見るだけだと目標達成の可能性が低くなることを示しています。

「未来について肯定的に考えることはとても心地よいことですが、それが成功を保証するように考えがちになり、必要な努力を怠るようになります。心の中ではすでに目標に達していても、現実にはまだ長い道のりがあります。自分がそこに到達していると考えると、目の前の障害に向けて自身を準備することなく、困難を乗り切るモチベーションも生まれません」と教授は説明します。

ポジティブが故に見えない現実

次にオッティゲン教授は、精神的対比が必要であると語ります。

「目標を達成するためには、夢想と現実とを並列して認識させる必要があります。そうすることで障害を乗り越えようとするエネルギーが得られますし、乗り越えられないと思えば、実現不可能として諦めるでしょう。こうすることで、私たちは追求する対象についてより選択的になります。不可能を追いかけて疲れ果てることもなくなります。」

つまり、「理想と現実のギャップを知る」ことが重要であるということです。それによって目標への障壁を理解することが実際に行動を起こすためのエネルギーに繋がる、もしくは実現が難しければ諦めるきっかけができるというわけです。

目標に到達できるという信念を押し通すだけで、本当に目標達成ができるなら、それに越したことはないのですが、実際は現実的に不可能な目標を排除したところからが本当の目標設定。

皮肉なもので、ここをポジティブ思考が故に見誤ってしまうと、到底無理な目標であるにもかかわらず、時間やお金ばかりを浪費した結果、失敗して気付くのです。
「最初から無理な目標」だったということを。

シャヴィット・コハヴ

中東のシリコンバレー、イスラエル在住。同時逐次通訳・翻訳業とジャーナリズムに携わる。邦訳書3冊。

通訳者とビジネスコーディネーター仲間で作る、日イ・ビジネス応援サイトを運営。日本語での執筆がもたらす新しい出会いが楽しいこの頃。