シェアリングエコノミーからみる信頼設計の方法

みなさんの中には、カー・シェアリングや、Airbnbを利用した旅などで、すでにシェアリングエコノミーの恩恵を受けている方もいるでしょう。

シェアリングエコノミーとは、スマホやPCを使って、個人資産の貸し出しを仲介するサービスのこと。21世紀の幕開けとともに、ICT(情報通信)技術の発展を背景に米国から始まりました。

シェアリングエコノミーでは、使っていない部屋や車などを貸し出すことで収入が得られ、利用者はそれら他人の資産を、必要に応じて利用することができます。既存のサービスとの折り合いさえつけば、眠っている資産を有効に活用できるという観点から、環境的・経済的な負荷の軽減にもつながる、画期的なビジネスモデルと言えるでしょう。

米国のシェアリングエコノミ-事情

米国の有名なサービスには、空き部屋やソファーの貸し出しを仲介するAirbnb、個人ドライバーと契約して、タクシーのような業務の仲介をするUberPCやモバイルアプリから、レストランの食事を取り寄せられるSeamless、掃除など家の中の仕事をオンラインで頼めるHandy、人数やメニュ―ごとに食材を宅配してくれるBlue Apron、洗濯物をピックアップし、ドライクリーニングして届けてくれるFlycleanersなどがあります。

これまで母親がしてくれた部活の送り迎えをUber、服の洗濯はFlycleaners、部屋の掃除はHandy、食材の買い出しはBlue Apron、料理はSeamlessがやってくれるので、これらをひとまとめにmom-tech(母親テクノロジー)と呼ぶ単語も生まれています。

さらにファストフード店で、手持無沙汰な店員の横にある自動販売機の長い列に並ぶ、人との接触を好まないミレニアルズにはうってつけのサービスの登場や日本でも多くの若者が、風邪の予防より、実は自分の表情を隠すためにマスクを着用しているという分析からもSNSは得意でも、対人でのコミュニケーションが苦手な世代が、シェアリングエコノミーの普及の後押しをしているようです。

ちなみに、ニューヨークの地下鉄には「人と接することなく、あなたの食欲を満たそう」というSeamlessの広告があり、「ニューヨーカーはこう食べる」の1行が添えられているのも象徴的です

シェアリングエコノミーの普及で考えさせられること

空き時間に運転手として働き、住み家の一角を貸し出し、TaskRabbit(ギグ仲介サービス)で見つけた犬の散歩役や臨時の秘書役を務める。以前なら〝生活の崩壊″と見られていたこのような生活様式が、今では立派な〝シェアリングエコノミーの担い手″で、〝誰もが複数の仕事が必要″だという世の中になりつつあるのです。

また、シェアリングエコノミーで不可解なのは、これまで私たちが必死になって守ってきた「プライバシー」はどうなってしまったのか、ということ。車を他人に平気で貸す、他人を台所に入れて夕食を作ってもらう、他人を家に泊める。これまで「他人=危険」だった現代社会で、急に他人は信頼できるものに進化したのでしょうか。

信頼を設計することは可能か?

Airbnbの共同創設者でCPOのジョー・ゲビア氏が、「The economy of Trust (信頼のエコノミー)」という題名で、「信頼を設計することは本当に可能なのか?」というテーマで語っています。

彼は、こう語りかけます。

「ある時、赤いマツダ車に誘拐されそうになったんだ。」デザイン学校を出たゲビア氏は、ヤードセールに参加していました。そこへ乗り付けた赤いマツダ。降りてきた人は展示を見て、彼の作品を買ってくれたそうです。それをきっかけに、二人は会話を始めました。

車で放浪を続けているその人をビールに招いたゲビア氏は、成り行き上、その人を自宅へ泊めることになります。「さもなくば、マツダの小さなトランクに押し込まれそうだったからね。」

ゲビア氏にとって、他人を家に泊めるのは、その時が初めてでした。変人だったらどうしよう。夜中に何度も起きて、居間のソファーに眠る宿泊者を観察したそうです。

2年後、家賃が払えなくなったゲビア氏とルームメートは、住んでいたロフトを旅人に又貸しすることで家賃を捻出することになります。それがAirbnbの始まりでした。

自分の最もプライベートな領域でもある寝室やトイレをウェブサイトで紹介し、赤の他人を家へ招き入れる。面識もない人を家に泊めるための「信頼」を作り出すことをイメージさせるために

ゲビア氏は聴衆に向かって「みなさん、携帯を取り出して、ロックを外してください」と呼びかけます。「それを左隣りの人に渡してください!」会場から、ざわめきが起こります。

「そうです、これが自分の家を赤の他人に貸す時に感じる〝小さなパニック″です」と彼は続けます。「それから、他人のスマホを持っている時にはだれでも責任を感じますよね。それが、他人の家の一部屋を借りる人が感じる気持ちなんです。」

統計的に、人は自分と似た人をより信頼する傾向にあると言われます。しかしそこにレビューや推薦の言葉が加わると、状況は一変します。Airbnbが利用者の声を公開しているのもそのため。実際にその部屋に泊まり、オーナーと対面した人の体験談は、借りる部屋を探している人の重要な判断材料となります。

 

「極端な例では」とウルグアイで他人の家で心臓発作を起こしてしまった旅人の例が挙げられます。救急病棟へ運び、付き添い、退屈しないように本を差し入れ、予定より長引いた滞在分を無料にしてくれたホスト。「これがシェアリングエコノミーのあるべき姿だと思う」とゲビア氏。

「もちろん、これは商取引ですよ。ただの宿泊所レンタルじゃない。シェアリングエコノミーは〝人と人とのつながりが約束されている″商取引なんだ。人が自身の一部をシェアする。それがすべてを変える。」

つまり、共有社会の未来は、コミュニティや人間同士のつながりが、孤立や分離に取って代わるべきものだと彼は考えるのです。

「私たちは新しいものを発明したわけではありません。もてなしは、大昔からあったものです。それでも数あるサイトの中でうちが発展しているのは、信頼の成分を取り出して、それを設計できることを知っているから。その設計が「他人=危険」という根深い固定観念を乗り越えさせるのです。」

ゲビア氏は「設計が根本的な問題を解決することはわかっているが、それをもう一歩先へ進めたら、次はいったいどのようなものができるだろう」と問いかけて、スピーチを終えます。

シェアリングエコノミーでは、オンラインサービスが故に多くのことが人と会わずに成立してしまいます。そこでシェアされているものの多くは物質で、人間の仲介は最少限です。

しかし、ゲビア氏の推進するサービスは、同じオンラインツールを使いながらも人間生活の共有をより緻密にしていこうという取り組み。

シェアリングエコノミーという言葉が本来めざしているものが、ここにあるのではないかと思わせられるとともに、機械化社会に生きる私たちの中には、人とのつながりを取り戻したい気持ちが隠れているのではないか、と感じさせられました。

シャヴィット・コハヴ

中東のシリコンバレー、イスラエル在住。同時逐次通訳・翻訳業とジャーナリズムに携わる。邦訳書3冊。

通訳者とビジネスコーディネーター仲間で作る、日イ・ビジネス応援サイトを運営。日本語での執筆がもたらす新しい出会いが楽しいこの頃。