起業家にとって最も高いハードルは孤独

ワークスタイルの多様化が進む最近の日本では、会社組織に縛られない自由な働き方や広義での起業・独立を考える人も多いのではないでしょうか。しかし起業自体は比較的スムーズに進んでも、起業家であり続けることは並大抵のことではありません。

以下のチャートは、118日付の米経済誌Forbesが、米広報活動企業Edelman社のレポートをもとに、企業のCEO(最高経営責任者)への信頼度が世界中で落ちていることを報じたものです。調査対象になった28カ国全部で前年の2016年と比較してCEOへの信頼度は落ちており、その中でも日本の18%は世界最低となっています。その一方、インドでは信頼度が70%と世界で一番高く、10人に7人がCEOは信頼できる存在だと考えているようです。

出典:Forbes

この統計を見るかぎり、日本での起業も簡単ではないなと考えさせられますが、それでも新しい道を開拓したい起業志向の方のために、起業家が困難を乗り越えて事業を続けていくために必要な要素を探ってみたいと思います。

 

起業家の前に立ちはだかる様々なハードル

起業するためには、サービス・プロダクトを作り、売るためのロジスティックスだけでなく、資金を集め、適切な場所を見つけて、従業員を雇うといった様々なハードルをクリアしなければなりません。しかしこれらは、やり方を学んで論理的なプロセスを踏まえれば解決できる問題が多いです。

起業家にとってより厄介なのは、心理的な問題でしょう。なぜならこれは内面的な戦いになるからです。心理的な問題は予期なく起こり、起業家のパフォーマンスを妨げます。そこでここでは、起業家が直面する心理的なハードルについて掘り下げてみたいと思います。

起業家への心理的ハードル

起業家とは、経験したことのない方法で、冒険的事業に自己投資する人のこと。新しいビジネスには、「不確実性」があちこちに転がっています。事前に行った市場調査は果たして正確だったのか。予想もしなかったライバル企業が現れる可能性は。机上の収益モデルが、実践で効率的に機能するのか。こういったことを考え出したらキリがなく、起業初期の起業家は足をすくわれかねません。

しかし不確実性は、どんな起業にも存在するのです。成功する起業家は、リスクなしに報酬はありえないことを知り、リスクを受け入れます。たとえ最初のビジネスが失敗しても、新しいものを築くチャンスがあると考えるのです。

生まれたばかりの企業は、非常に不安定です。予期していなかった出費が重なったり、主要メンバーが辞めてしまったり、まるでローラーコースターに乗っているようなもの。はじめは「その乗り心地を楽しんでいるんだ」と強がりを言ってはみても、それが長びけば起業家の心を蝕みます。人間は決まったルーチン、基盤や信頼できる構造を求めるものだからです。

次に「責任」も起業家の心理に負担を与えます。会社の名前をつけることから最初の顧客との契約締結まで、すべての決定がビジネスに影響するからです。さらにビジネスが成長するにつれ、パートナー、従業員、投資家への責任も膨らんでいきます。起業家は常日頃から意思決定の疲れを減らし、悪い結果からも回復できることを理解して、これを克服するしかありません。

また起業家には、自分のアイデアを育てるのに夢中なあまり、すべての時間をビジネスにつぎ込んでしまう傾向があります。度が過ぎれば、週100時間労働にもなりかねません。この生活バランスの不均衡に気づかないことが一番の危険です。起業家は健康を重視し、休憩を取ることを忘れないようにする必要があります。

起業家の孤独

これらのほかにもう一つあまり理解されていない問題、起業家の「孤独」があります。起業家は、〝プロジェクトをしている間は内向的に機能し、顧客に接する時には外向的に変わる天才″として描かれることがあります。

しかし現実には、多くの起業家は人に囲まれている時にはストレス、心配、恐怖を封じ込めることを見事にやってのけているのです。ここには〝防御のメカニズム″が働いています。顧客に自分が怯えていることを知らせたらおしまい。チームメンバーに不安を見せたら、会社が不安定になってしまうからです。

起業家が本当の自分に戻れる唯一の時間は、自分一人の時だけ。こんな状態が長く続けば、確実に健康を害します。実際に起業家たちは、孤独をどう乗り切っているのでしょうか。

起業家ごとに違う孤独の乗り越え方

英国のトップ企業家の一人、Cambridge Satchel Companyの創設者ジュリー・ディーン氏は、ある時制作中のデザインを盗まれ、38000個のカバン作りの残務がある中で、盗んだ製造者を解雇せざるを得ませんでした。「物事がうまくいかない時は、スタッフに安心感を求めることはできません。そんなことをしたら、船の舵取りがいなくなってしまいますから。スタッフには強い自信を持ったリーダーが必要なんです。」ディーンさんは、独りでこのような危機に対応できない人は起業家には向かないと言い切ります。

経営立て直し中には母親にさえも、ベンチャーへの懸念をもらしませんでした。「とても孤独でしたが、それが起業家の領域です。自分の問題を多くの人に話したくないというメンタリティがあるんですよ。」一人でやり抜くコツについて彼女は、起業当初の動機を思い出して、それに焦点を当てていれば乗り切れるのだと言います。

ベンチャーキャピタル支援の技術を創出したLystable の創始者ピーター・ジョンストン氏は、勤めていたGoogleを辞め、25歳で起業を考えた際、母親の大反対が起業の成功への不安を感じさせたと語っています。頼みだった友人たちもそれぞれのキャリアの構築に忙しく、一人も参加してくれずに単独の起業となり、ネットワークを作って耐え抜いたのだそうです。同じようなことをしている人の集まるコミュニティなど、ネットワークを持つことが助けになったという彼の経験に同意する起業家は、ほかにもたくさんいます。

ホリデービジネスのYour Golf Travelの創設者ロス・マーシャル氏は、事業改革のために馴染んだ従業員を新人と取り換えなければならない時が、経営者として最も孤独を感じる時だと話します。経営状態はできるだけシニアスタッフと共有して、自分の決定の理由も説明する。リーダーは重荷を背負いはするが、うまくいかない時には部下にもそれが伝わるものだから、単独で解決しようとはしない、というのが彼のやり方です。

シャヴィット・コハヴ

中東のシリコンバレー、イスラエル在住。同時逐次通訳・翻訳業とジャーナリズムに携わる。邦訳書3冊。

通訳者とビジネスコーディネーター仲間で作る、日イ・ビジネス応援サイトを運営。日本語での執筆がもたらす新しい出会いが楽しいこの頃。