顧客より従業員の満足度を高めなくてはいけない時代が迫っている

今年も各方面から「今年の世界ビジネス動向」の予想がなされています。

2016年の欧米のビジネスの主要なテーマには、シェアエコノミーに伴う「オンデマンド労働へのシフト」、「優秀な人材確保競争の激化」、ミレニアルズに続く、1990年末以降に生まれた「Z世代の職場への進出」などがありました。

これらに引き続き、2017年に予想される世界のビジネストレンドには、インターネットを通じて単発仕事を受発注するギグエコノミーの定着による、労働者のフリーランス化などの「労働形態の多様化」、それに伴う「勤続年数の短縮化」、技術面では「バーチャルリアリティが職場に革命をもたらす」ことなどが考えられます。

2017年に注目すべきビジネストレンド

さらに、もう一つ注目すべきトレンドがあります。それは、企業が従来の「顧客満足度重視」から「従業員満足度重視へと焦点をシフトさせていく」だろうという予想です。

実はこの傾向、2016年の初頭からささやかれていました。それが2017年にはより顕著になるだろうというのが、欧米の経営者やリサーチ会社の共通した見解です。

過去100年間、企業は〝経営者がコントロールし、従業員は消耗品、仕事は骨折るもの″という考え方の上に成り立っていました。そのため、企業は顧客満足度を最大化することを何よりも優先させてきました。

企業活動とは〝顧客に満足してもらい、顧客の支持を集めること″に他ならなかったのです。

よい従業員経験が未来の仕事を支配する

The Future of Workの著者で未来学者のジェイコブ・モーガン氏は、2016年7月の Talentsoft 社のユーザカンファレンスで「なぜ従業員経験が仕事の将来のすべてなのか」というスピーチをしています。

これによると、これから先の企業経営は、雇用者と従業員間のコミュニケーションを基盤にした「体験的な組織を作る」という高い目標を目指しているというのです。

「体験的」という言葉が意味するのは、組織に「人間性を取り入れること」。ポジティブな従業員経験を作り出せる企業こそが、仕事の未来を支配していくのだとモーガン氏は主張します。

それでは、二の次になった顧客はどうなってしまうのか。心配は無用です。企業によく対応してもらっているという満足感に満ちた従業員は、必然的に顧客に対してもいいサービスを与えるはずだからです。

このシフトの背景にあるのは、欧米の労働形態の多様化による、伝統的な企業で働くことへの人気の低下です。例えば、インターネットを使って家から好きな時間に働けるのなら、ガソリン代を払ってまで(米国では交通費は支払われないのが普通)出勤する必要はあるのか。

その結果、企業は能力の高い労働者の獲得と保持にやっきになっているのです。昨年4月に米国の調査会社Future Workplaceなどが公表した全国調査では、米国企業の人事担当者の83%が、企業成長の鍵は「従業員の満足度の最大化」にあると認識しているという結果が出ています。

従業員満足度の改善に向けた欧米企業の取り組み

従業員満足度の改善は、今や不可欠なものです。それが企業の成長を左右するのですから。求人施策の失敗は、実際に多くの企業に多大な経済的負担をもたらしています。ある調査では、米国の求職者の60%近くが求職中に不快な体験をし、そのうちの72%がその体験をSNSなどで共有していることがわかっており、これは企業に大きなダメージを与えます。

例えば、毎年何万人もの求職者が押し寄せる英国の人気メディア企業Virgin社も、不採用となった人々の不買運動をきっかけに、毎年の採用過程から多額の損失を生み出していることに気づきました。

求職者全員を採用することはできないまでも、不採用者にも嫌われないためにはどうすればいいか。同社は不採用者のネガティブな感情を徹底的に研究して、求職者一人一人とのコミュニケーションに努めました。

そのほか、人員に空きが出た時に不採用者に素早く伝えたり、求職者へのねぎらいの商業的オファーを贈ったりすることで、今では求職者に最も愛される企業に生まれ変わり、損失をプラスに変えたのです。

同社のほかにも、従業員の満足度の改善に努めている企業には、従業員経験を専門に扱う部門を作り出したAirbnb社、従業員満足度に関するあらゆる賞を世界中で受賞しているCisco社、多様性を重んじ、従業員全員が貢献できる文化を強調している大手家電メーカーWhirlpool社などがあります。

Google社は透明性の高い企業文化で知られますし、従業員との話し合いを基盤に据えているHYATTホテルグループは、従業員との卓越した関係性を築いていると言われます。

これらの企業は、職場の設計、魅力的な昇進制度、欧米企業にある年末の従業員レポートの廃止、従業員の個人的なパラメータに見合ったオフィステクノロジーの導入などに余念がありません。実際このような企業に学べと、欧米では社内ツアーが盛んにおこなわれています。

日本でも見え始めた従業員満足度の改善

今年のお正月、日本でも従業員の満足度を改善しようとする試みが、三越伊勢丹ホールディングスで見られました。同社は首都圏8店舗の初売り日をこれまでの1月2日から、3日へ変更したのです。

1990年半ば以降、日本の百貨店は元日以外無休、営業時間も夜8時までが普通になっています。売上高が91年のピーク時の3割以上も縮小したにも関わらず、年間総営業時間は逆に3割増しの現状。長い拘束時間の販売職は敬遠されて、販売サービスの低下にもつながっています。

これに歯止めを掛けるために同社は営業時間の拡大よりもサービスの強化を重視、2011年から店舗休業日も再び導入しています。待遇を改善して、販売員のモチベーションを上げることで売上げの増加が見込めることが、ここでも証明されているのです。

よい従業員満足度を高める3つの要素

モーガン氏は、企業がよりよい従業員満足度を生み出すために必要な要素として「物質的なスペース」、「文化」、「テクノロジー」の3点を挙げています。

「物質的なスペース」とは、見たり触ったりできる環境のことで、オフィスの床張りから、壁の装飾、周囲で働く人々までもがこれに含まれます。これはオープンフロアか、壁で仕切られたフロアかだけではなく、会社が大切にしている信頼や透明性などの価値が、物理的な環境に反映されているかどうかを考えなければならないということです。

「文化」とは、企業で働くときに従業員が感じる雰囲気です。組織のスタイルやリーダーシップへのアプローチが、これを作り出します。企業は、従業員が会社から価値を認められているか、公平に評価されていると感じているかを問うべきだと、モーガン氏は説明します。

「技術」とは、モバイルデバイス、ソフトウェア、ハードウェアなど、オフィスで使用されているものが最新で、顧客にも出せるレベルのもの、従業員が個人使用したいと思うようなものであるかどうかです。それらが従業員全員に与えられているのか、一部の従業員だけに限られているのか、従業員のニーズに焦点を当てたものか、ビジネス利用のみかも考慮しなければなりません。

これらはどれ一つをとっても、従業員が心地よく働ける環境を作り出すのに欠かせないものばかり。

モーガン氏は「従業員満足度とは達成値ではなく、終わることのない旅」だということを企業が理解し、従業員とコミュニケーションを取りながら改善を続けていくことが理想的だと強調します。

シャヴィット・コハヴ

中東のシリコンバレー、イスラエル在住。同時逐次通訳・翻訳業とジャーナリズムに携わる。邦訳書3冊。

通訳者とビジネスコーディネーター仲間で作る、日イ・ビジネス応援サイトを運営。日本語での執筆がもたらす新しい出会いが楽しいこの頃。