「24時間戦えますか?」何故、バブル時代の美学が今ではブラックと言われるようになったのか

電通新入社員の過労死認定を受け、日本では「ブラック労働」「ブラック企業」についての議論が再び活発になり、問題視されています。

しかし、過去にさかのぼると高度経済成長の最中にあった古き良き日本では「長時間たくさんの仕事量をこなすこと」が美徳とされていたとも言われています。それが今ではそのような働き方は「ブラック」と揶揄されるようになりました。この意識の変化の根底にはどんな背景があるのでしょうか?

そして、ブラック労働が「ブラック」と言わしめるようになったのはなぜなのでしょうか?

ブラック労働はずっと前から存在した

最近物議を醸している長時間労働や上司などからのパワハラをはじめとした「ブラック労働」。しかし、戦後の高度経済成長期から、こうしたことは問題となっていました。

20年ほど前の1980年代後半、バブル景気に沸いていた時代に「24時間戦えますか」のCMでも見られたように、長時間労働は当たり前のような風潮でしたが、そこまで課題は顕在化していませんでした。

ではなぜ今、ブラック労働がここまで問題となっているのでしょうか?

非正規社員化と成果主義。バブル経済崩壊から間もない1990年代を代表する2つの変化が理由と考えられます。

非正規社員の増加

まずは非正規社員化。この変化により企業側はスピーディーな人員確保や時代の流れに柔軟な雇用体系を実現できました。しかしながら、非正規社員にとっては収入が高く福利厚生がしっかりしている正社員と不安定な生活を強いられがちな非正規社員という境界線ができてしまいます。

さらに増え続ける非正規社員には育成コストをかけられず、研修などの投資がしにくいという企業の事情もあります。それにより、非正規社員の人々は、キャリアに繋がる難易度の高い仕事を任せられる機会がほとんどなく、様々な会社を転々としながら代替可能な単純作業をするしかなくなってしまうのです。

また、非正規労働の中でも一定の割合を占める派遣労働にも大きな変化が起こっています。2015年の派遣法改正で、全ての会社において3年ごとに働き手を変えさえすれば、ずっと派遣業務を継続できるようになりました。この改正により、これまで以上に派遣労働へ拍車がかり、労働力の使い捨てに繋がるのではないか、という危惧があります。

成果主義という仕組み

1990年代より浸透してきた「成果主義」の考え方も「ブラック労働」を見える化した要因と言えます。

年次や肩書によらず実力のある若手を重要なポストに抜擢しやすくなった一方で、日本の成果主義は影の部分も大きいのです。本来成果主義は「頑張った人がその分だけ報われる仕組み」です。

しかし、それぞれの仕事に対する意欲を高めるはずの制度が、むしろ労働者を消耗させているというケースが少なくないのです。なぜなら働く側の成果主義を逆手にとって無理な目標を追わせるような、過剰な労働の助長に繋がるからです。

働けども働けども、目の前にあるのは仕事の山。寝る時間を削ってでもプライベートの時間をなくしてでも仕事に向き合わなければ、居場所がなくなってしまうという危機感や不安感。本来助け合うはずの同僚やチームメンバーも蹴落とすライバルとなってしまい、よりどころがなく結果的にうつ病などの精神疾患を患うケースが増加してしまいます。

実際に厚生労働省の調査データでも見て分かるように1990年代以降、うつ病を含む精神疾患の患者数は右肩上がりに増えています。

出典:http://www.mhlw.go.jp/kokoro/speciality/data.html

なぜ「ブラック労働」はブラック労働と言わしめるようになったのか?

世間一般で明確にブラック労働=悪という捉え方になった理由としては主に2つあります。

1,労働による適切な対価が得られなくなった

かつては会社に貢献すれば貢献するほど労働者側にリターンが高い確率で戻ってきました。一つの会社で定年まで務める終身雇用の制度が盤石であったからです。しかしながら今は、終身雇用の崩壊と不安定な景気動向により、いつリストラにあってもおかしくない時代です。労働による適切な対価が得られない世の中だからこそ、ブラック労働が「ブラック」と言われる原因になるのではないでしょうか。

2,精神疾患が広く認知・要員されるようになった

また、うつ病や統合失調症など精神疾患が世間に広く認知、容認されるようになったのもブラック労働が浸透した一つの要因ではないでしょうか。これによって、これまで怠け病とも言われていた労働が原因での精神疾患や“仕事に殺される”問題が浮き彫りとなりました。また、世の中全体にeメールや携帯電話、オンラインチャットが普及したことにより、仕事とプライベートの境目があいまいとなったことも労働者への精神的な負担に拍車をかける一つの要因となったと言えます。その結果、休日やプライベートな時間まで会社から追いかけられてしまうような事態を招いてしまいました。

もしかしたらあなたが「ブラック労働者」を生み出しているのかもしれない

ここまでどこか他人事のように読み進めてきた方もいるかもしれませんが、実はあなたがブラック労働を生み出す引き金になっているのかもしれません。

部下を持つマネージャーや経営者の中には「仕事で成功することが何よりも素晴らしいことである」「仕事では自発的に動き、全力を尽くすことが当たり前である」「上昇志向であることが当たり前」といったバイタリティのある方も多いでしょう。

しかし、「プライベートと仕事はきっちり分けたい」「仕事はやりたいことをやるための我慢比べ」「仕事はそこそこできていればいいや」という価値観の人も存在することを忘れてはいけません。

例えば、これまで自分が仕事で得られてきた価値観や働き方を部下に求めて、必要以上のコミットメントを要求したとしても、そこに価値を見出していない人にとってはただの無理強いでしかありません。

つまり、そうした価値観の相違や押し付けがブラックな労働やブラックな職場を生み出す原因になっていると考えます。「よかれ」と思った無意識の行動でも自分の「当たり前」の感覚を一度崩してみると、部下や従業員にもよい変化が生まれるのではないでしょうか。自分と同じ価値観を持つ人は、マイノリティであり、ほとんどの人にとっては「当たり前」のことではないのです

鈴木里緒

1993年宮城県生まれ。山形大学在学中。2014年より執筆活動を始める。webを中心に複数媒体で企業などへの取材記事を書いている。

執筆関心テーマは働き方、コミュニティデザイン、ダイバーシティ。