中東のシリコンバレー イスラエル経営者に宿る「何事にも動じない精神」

イスラエルは、今や「中東のシリコンバレー」と呼ばれるほど、スタートアップが次々と生まれる先進技術の宝庫となりつつあります。

これほどまでにイスラエルのテクノロジーが発展した背景には、自国の防衛のために従事しなければならない兵役が一つの理由としてあり、兵役中に技術を学んだ後、2〜3名が集まって、スタートアップが生まれるというサイクルがあります。

それに加え、イスラエル人のメンタリティが関係していると語るのは、日本とイスラエルの2ヶ国間でビジネスコーディネータをしているデロール・ロテル氏(写真右側)。

 

彼はイスラエル工学の最高峰であるテクニオン大学卒業後、ソフトウェアエンジニアとして働き、2012年に日本とイスラエル間のビジネス開発に特化したI.J.ビジネス道社を創業。イスラエル経済省や輸出協会のビジネスコンサルタントを担当するなど、両国のビジネスについて精通している人物の一人です。

 

日本のビジネスマンは失敗を恐れすぎている

――  ロテルさんは、日本とイスラエルのビジネスコーディネータとして、20年以上の経験をお持ちだと伺いましたが、どんなお仕事をされているのですか。

一言でいうと、イスラエルとの技術提携を望む日本企業とイスラエル企業をマッチングしています。日本の企業から依頼されて、彼らが必要としている技術を探したり、日本へ進出したがっているイスラエル企業のために日本のパートナーを探したりもします。そのほか、日本とイスラエルではビジネスにおける考え方や習慣が大きく違っていますので、イスラエル企業向けに日本のビジネスについて教えるセミナーを行ったりもします。

 

――  具体的に日本とイスラエルで、ビジネスの考え方はどう違っているのでしょうか。

日本企業がビジネスをする時には、パートナーとなる相手企業との信頼関係が何よりも重要視されますが、イスラエル企業は利益が最優先されます。

実際にあったことですが、ある日本の大手企業とイスラエルの企業が何年もかけて、一つのプロジェクトを共同で築き上げていました。それに携わった人たちは、お互いが理解し合って信頼関係も構築できていたのですが、ある日突然、イスラエル企業のキーパーソンでもある販売担当マネジャーが会社を退職してしまいました。

彼がどうしてそうしたのか、詳しいことはわかりませんが、おそらく自分の業績に見合った待遇を会社から受けていなかったのだと思います。それでほかの会社へ移ってしまった。

その結果、日本企業は信頼を寄せていた担当者がいなくなったことが原因でプロジェクトを中止することにしたのです。

それだけ日本企業はビジネスにおいて信頼関係を重要視していることはもちろんですが、このイスラエル企業の担当者のようにプロジェクトが進行中であろうが自分の利益に合わなければシビアに判断します。

 

――  これはまた、極端な例ですね。そのほかにも、日本とイスラエルのビジネスの違いはありますか。

日本企業は事前に調べられる限りのことをすべて調べてから契約します。ですから、イスラエル企業から見ると、たいへん時間がかかります。

恐らく日本のビジネスマンには、失敗を恐れる気持ちが常に働いているのだと思います。だからできるだけリスクを避けようとします。失敗を恐れるがために行動しないということは、イスラエル人にはありません。その分たくさん失敗をして、その失敗から学んでいくことが多いかもしれませんね。

 

イスラエルのスタートアップがもつ「フツパ」とは

―― 先ほどの話に近いかもしれませんが、ある日本人ビジネスマンが「イスラエルにはどうしてこんなにスタートアップが多いのか」とイスラエル人に質問したら、「日本人は何事も上司や会社に許可を求めてからやるだろ? イスラエルでは、まずやってしまうんだ」という答えが返ってきたそうです。

イスラエルの企業家には、イスラエルの「フツパ」という精神があるんですよ。これを日本語にすると、「何事にも動じない」というような意味あいになります。このフツパがあるからこそ、まだ信頼関係が築かれていないような新しいパートナーとでも仕事ができるし、まだ完全に仕上がっていない製品を扱うことも平気です。

日本人だったら、新製品を市場に送り出すまでに限りなくチェックを繰り返すでしょう。そのために時間がかかるようであれば先に送り出してしまって、そこから改善していく。なので例え予期せぬトラブルがあっても動じません。このスピード感がスタートアップが多く生まれる理由だと思います。

 

指示に従わせる日本の教育と意見を述べさせるイスラエルの教育

―― 日本企業とのやりとりでロテルさんが感じたことはありますか。

まだ日本企業は階級制度が根強く残っているように思います。なぜなら、日本企業は会議をする時に上司が口を開くまで、部下の人達は発言しません。イスラエルの企業では、最初から新人でも役職のない人でも平等に発言します。それからプレゼンテーションでは、日本は説明が全部終わるまで待ってから質問を始めるのですが、イスラエルは説明の途中であっても質問してきます。

 

――  それはどうしてでしょう。

他人の意見を聞いて、それがいいものかどうかを平等に発言し、評価する文化があるからだと思います。これは教育の違いが大きいのかもしれません。例えば、日本だと授業中に先生の言うことを聞くことを教えられますが、イスラエルでは自分の意見を言うことを教えられます。

 

――  以前、保育園でも3歳児が昼食を残すと、「どうして食べなかったの」と保母さんが聞きただすのを見たことがありました。確かに日本ではあまり子供に意見を聞く習慣はないように思います。

もちろん中には自分の意見を言えない子供もいますが、子供の頃から自分の意見を相手に伝えることが習慣であれば、相手に意見を伝えることを恐れなくなります。

ただ、日本とイスラエルのどちらが優れているということではなくて、やり方や考え方がこれだけ違うということです。利点と弱点は裏返しですから、お互いの違いをよく理解すれば、優れてるところを取り入れてビジネスをスムーズにできると思うのです。

 

シャヴィット・コハヴ

中東のシリコンバレー、イスラエル在住。同時逐次通訳・翻訳業とジャーナリズムに携わる。邦訳書3冊。

通訳者とビジネスコーディネーター仲間で作る、日イ・ビジネス応援サイトを運営。日本語での執筆がもたらす新しい出会いが楽しいこの頃。